摂南大学 理工学部 電気電子工学科 | |||||||||||||
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2005年度 修士学位論文要旨 「C60 クラスターイオン銃の開発 ーイオン源の最適化ー」 摂南大学大学院工学研究科 電気電子工学専攻 表面物性工学研究室 安河内隆裕 |
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近年,有機薄膜半導体デバイスは溶液からの塗布工程により安価に量産でき,また伸張生に富むことなどから 注目を集めており,有機ELディスプレイ,有機TFT液晶,有機太陽電池,有機RFIDタグ,人工皮膚などへの 応用研究が精力的に進められている。このようなナノメートルスケールの膜厚を有する有機薄膜積層材料の開発・研究には, その表面および内部あるいは界面の化学組織と分子結合状態の解析が不可欠である。従来,金属や半導体のナノ材料に対しては, 希ガスイオンによるスパッタエッチングとX線光電子分光(XPS)や飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)などの 結合状態に敏感な表面分析装置を組み合わせたスパッタ深さ方向分析が広く用いられてきた。しかしながら有機物に対して 希ガスイオンを照射するとアトミックミキシングによる試料の損傷が激しく,正しく分子結合状態を解析することは極めて困難であった。 一方,極浅イオン注入や機能薄膜形成のための新しい手法として開発が進められてきたクラスターイオンビーム技術を ソフトスパッタエッチングに利用できることが以前より指摘されてきた。クラスター(原子集団)をイオン化して物質表面に 照射するとイオンの運動エネルギーがクラスターの構成原子に分配され,結果として超低速高電流密度のイオン照射が容易に実現できる。 しかしながら従来開発が進められてきた断熱膨張を利用した希ガスクラスターイオンビーム装置は排気系を含め装置が大変大がかりな ものになってしまうため,市販の表面分析装置と組み合わせるのは難しく,またクラスターサイズをそろえることにも問題がある。 そこで本研究では,C60 試料を昇華させることによってC60 分子,すなわち炭素原子が60個集まった サイズのそろったクラスターが容易に得られることに着目し,この現象を利用して表面分析の現場で利用可能な小型のC60 クラスター イオン銃を開発することを目的とした。今回は特にイオン銃の核となるイオン源部分を最適化することを目指した。実験は TiO2 薄膜形成 用に設計された ICB (Ionized Cluster Beam) 蒸着装置を改造して行った。まずグラファイト製るつぼの温度を熱電対でモニターして PID 制御により 温度コントロールできるよう,ヒータ電源を改造した。昇華したC60 クラスターは電子衝撃によりイオン化するが,このとき C60+ と同時に生成される残留ガスイオンとを分離するために飛行時間法を採用した。すなわちイオンビームを パルス化し,イオンがコレクターに到着するまでの飛行時間の差を利用してイオンを分離する。このため電子衝撃用電源を改造し, 数10μsec 程度のパルス幅のビームを発生させ,C60+ イオンを分離検出することに成功した。 条件を変えながら実験を行ったところ,るつぼ温度 500℃を越えたころからC60 の昇華が始まり,600℃付近で C60 の解離が始まることがわかった。従って最適るつぼ温度は 500-550℃付近である。またイオン生成効率 (C60+ イオン電流/電子衝撃電流)は,今回用いた装置では電子衝撃電圧 150V 付近で最適となることがわかった。 ![]() 関連論文・発表(下線は発表者)
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