固体表面に電子を照射した際,固体表面から放出される電子を二次 電子と呼んでいる.この二次電子を信号とする走査電子顕微鏡(SEM) は,金属や半導体などの電導性試料から,バイオ・有機材料などの非
電導性試料まで表面微細構造の観察手法として幅広く利用されてい るが SEM では電荷をもつ電子をプローブとして用いるため,絶縁性 試料の観察時には常に帯電現象が問題となる.帯電現象の回避策と
して,入射電子の入射角やエネルギーを調整して安定観察できる条 件を探す方法などが用いられる.入射エネルギーを調整する場合に は,各試料に対して二次電子収率のエネルギー依存性のデータが必
要となる. 本研究は電子顕微鏡などの種々の電子ビーム装置で絶縁物を扱う 上で重要となる二次電子収率を精密に測定することを目的とする. 全二次電子を測定するために後藤により精密な貫通型ファラデー
カップが作製された.設計上での捕集効率は98%と非常に高い精度で あり,これを用いて全二次電子収率の測定を試みた.従来の測定方法 と比べ,電子コレクタからの電子放出(三次電子)の効果が極めて小
さく,超高真空下で表面の清浄度をオージェ電子分光法で確認し,表 面形状をSEMで確認を行える為,より精密な二次電子収率の測定が 行えると考えられる.
ファラデーカップの捕集効率の測定を行った結果,平均で94.9%の 捕集効率だった.補集効率が設計値より下がっていたのは,ファラ デーカップの上の穴からの電子の漏れが推定よりも大きかったため
と考えられる. 実験当初はデータの再現性が悪く,また時間と共に収率が減少して ゆくという問題が発生した.いくつか確認実験を行った結果,測定の
際中に電子ビームの量が減少することや,試料表面が汚染されるこ とが原因であることがわかってきた.電子ビームが減少する原因の 特定には至らなかったが,清浄な銅の試料で加速電圧が1keVの時の
全二次電子収率が後藤のデータと比較すると,測定開始直後の値が 近く再現性がある為,初期値を信頼して測定を行うことにした. 二次電子収率の計測は1930年代より行われているが,そのデータ
にはかなりバラツキがある.その中で超高真空下でオージェ電子分 光を用いて表面清浄度を確認して行われた,越川や後藤の測定結果 は互いに一致しており,非常に信頼性の高いデータだと考えられる.
今回我々の測定した全二次電子収率はそれらの値に近い為かなり信 頼できる値を得られたと考えられる. ただし我々が使用した試料は,表面に数ミクロンほどの凹凸ができ
ており,形状の違いにより二次電子収率に影響を与えている可能性 がある.いかに平らな表面の試料を作るかが重要になってくる.ス パッタで削る深さは数ナノメートルであり,試料の研磨で平坦度が
ほぼ決まる為,いかに平らに研磨できるかどうかが課題である. 今回の研究により後藤型ファラデーカップの性能の高さが確認で きたが,JAMP-10を用いた測定において,電子銃銃筒部の真空の悪さ
と電子ビームの安定性に問題があった.今後JANP-10を用いて二次 電子収率の精密測定を行ってゆく上での課題であると考えられる.
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