電磁波の一種であるテラヘルツ波は、X 線が持つ物質透過力と赤外線が持つ物質の透視力を併せ持つため、食品検査やテロ対策などをはじめ、さまざまな用途への応用が期待されている。しかしながら、大出力の生成が難しかったり、発生装置が大がかりになることなどから、最近まで開発が遅れていた。近年では装置の小型化が急速に進み、半導体デバイスを用いた発生が可能になりつつある。 本研究は新しいテラヘルツ波の発生源としての、周期的構造を持つカーボンナノチューブ(CNT)薄膜の開発を目的とした。この発生源では、CNT のバンドル(束)を基板上に周期的に配置し、フェムト秒レーザを照射する。この時、各CNT バンドルから色々な周波数の電磁波が放出されるが、干渉効果によりCNT バンドルの間隔に相当する波長の電磁波が強く放出されるという原理である。CNT は 化学気相成長法(CVD:chemical vapor deposition)を用いると、Fe,Pt,Ni,Os などの金属触媒の表面に成長させることができる。従って金属触媒を基板上に周期的に配置できれば、CNT バンドルを周期的に配置できることになる。本研究では、金属触媒を周期的に配置するためのテンプレートと して、自己組織化多孔質高分子膜と自己組織化ポーラスアルミナ(アルマイト)の2種類の基板の利用を試みた。前者は、高分子溶液が固化する際に付着した微細な水滴が自己組織化する現象を利用するもので色々な条件下で成膜実験を繰り返したが、空孔が規則正しく整列した面積を大きくすることができなかった。後者は、アルミ基板を陽極酸化処理(アルマイト処理)する際に形成されたアルミナ皮膜層に発生する空孔が自己組織化する現象を利用するものである。このポーラスアルミナ基板を用いて金属触媒の配置間隔 をサブミクロスケールで制御し、サブミクロンスケール間隔の垂直配向CNT 薄膜の生成を目指した。結果として、混合酸(シュウ酸とリン酸)を用いることで、ほぼ試料全面にわたり均一な孔径を持つ空孔を発生させることに成功したが、規則正しい配列は残念ながらまだ観測されていない。ただし,アルミ基板表面に意図的に直線状の傷をつけること、その傷に沿って空孔が発生するという現象を発見した。この現象を利用したり、陽極酸化の条件を調整することで、自己組織化現象の発現条件 が見い出せるものと思われる。均一な空孔が試料全面に発生したアルミナ基板に触媒金属をスパッタ蒸着し、エタノールガスを用いてCNT 膜の気相成長を行った。触媒金属としてPt とFe を使ってみたが、Pt ではほとんど炭素が堆積せず、Fe の方が堆積量が多かった。アルミナ基板にPt をスパッタ蒸着すると黒く変色し、PtO2 となることがわかった。この化学変化により触媒機能が弱められたものと思われる。堆積した炭素がCNT バンドルとなっているかどうかは、現段階では、走査型電子顕微鏡の分解能が足りないため確認できて ない。今後の展開として、形状観察できるほどCNT を長く成長させる必要があり、その為に、より長時間の成膜を試みる。
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