摂南大学 理工学部 電気電子工学科 | |||||||||||||
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2014年度 修士学位論文要旨 「二次電子分光法を用いた全固体 Li イオン二次電池の表面電位計測」 摂南大学大学院工学研究科 電気電子工学専攻 表面物性工学研究室 朴 商云 |
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Li イオン二次電池は起電力が高く,軽量でエネルギー密度の高いものが実現できるため,携帯機器や小型電子機器等の電源として 広く用いられており,最近では電気自動車のバッテリーとしても注目を集めている。多くの長所を持つ
Li イオン電池であるが, 金属の Li の反応性が高いため一般に使用されている有機電解質を用いるタイプでは発火したり破裂したりするなど、安全性に大きな問題がある。
そのため可燃性液体を用いない全固体 Li イオン二次電池が最近注目されている。薄膜型の全固体 Li イオン二次電池は半導体プロセスを用いて 集積回路中に作り込むこともでき,また積層化することで非常に高エネルギー密度の電池を作製することも可能である。このような特徴を持つ
電池であるが,現状では固体/固体界面を Li イオンが通過する際の界面抵抗が大きく実用化が遅れている原因となっている。 このため,Li イオンの移動が電池中のどの場所で阻害されているのか微視的な分析・解析手法への要求が高まっている。 2010年,ファインセラミックセンター(JFCC)の山本和生氏らは透過型電子顕微鏡(TEM)の内部で全固体電池を充放電させる技術を開発し, 電子線ホログラフィを用いて電池内部の電位分布をその場観察することに世界で初めて成功した。しかしながら,この実験では全固体電池試料を 部分的に~10nm 程度の厚さに薄膜化して測定しているため,はたして測定した部分も ”生きた電池” として充放電に寄与していたのか確認されていない。 一方,走査型電子顕微鏡(SEM)と電子分光を組み合わせる方法では厚い試料の表面,すなわち製作された状態の電池の表面を加工する事無くそのまま測定することができる。 本研究では,Li イオンの移動に伴って変化する電位分布の変化を二次電子スペクトルの立ち上がりエネルギーの変化により計測することを試みた。 ただし,ここで計測できるのは表面電位であり,内部電位との対応関係は現段階ではまだ明らかにされていない。 まず,固体電解質膜(LATPシート)に対して電子線照射損傷の有無を SEM を用いた特性X線分析(EDS)により確認した。 次にこの電解質膜を用いて作製された全固体二次電池を試料として用意し,走査型オージェ電子マイクロプローブ JAMP-10 の試料室内部にて サイクリックボルタンメトリ(CV曲線測定)と二次電子分光の同時測定を行うための試料台を新たに設計・製作した。CV測定は電池の性能評価のために 従来より行われてきた電気化学的計測手法である。これを用いて充放電サイクルの各段階における表面電位の計測を試みた。また,これと同時に 試料断面の正極から負極に向かう方向で,二次電子強度の一次元分布(ラインプロファイル)の計測を行った。 二次電子強度は一般的に表面電位の上昇とともに増加するので,定性的に電位の変化を読み取ることができる。充放電サイクル中の 二次電子強度ラインプロファイルの変化を記録したところ,正極付近でのプロファイルのハンプが可逆的に増減する様子が観測された。 これは正極層への Li イオンの出入りに対応している可能性がある。この実験段階では,CV計測中にスペクトルの立ち上がりエネルギーを計測できない 領域があった。このため、電池の両極に等しく負のバイアス電圧をかけ,二次電子スペクトルを高エネルギーにシフトさせるよう,バイアス回路を 設計・製作し,CV測定のためのガルバノスタットアナライザと組み合わせることで,充放電サイクル中のすべての点において 二次電子スペクトルの立ち上がりエネルギーを検出できるようになった。ただし,測定した場所は正極と負極の中間付近の一点である。 次に,電池試料の両極間に一定電圧(充電方向)を加えて,その状態で電池断面を正極から負極にかけて9点に分割し,各点での表面電位を 上記の方法で計測した。この結果は測定精度や分解能がよくないものの, 山本氏らの TEM 電子線ホログラフィを用いて観測された Li 電池の内部電位分布と定性的に対応しており, 正極及び負極近傍の電気二重層の形成に起因する電位降下に加えて,固体電解質中の電位勾配も観察することができた。 後者は Li イオンが電解質中を移動する際に発生する電位勾配に対応している可能性がある。 以上のことから,全固体 Li イオン二次電子断面の充放電サイクル中の表面電位分布を二次電子分光法により計測することは可能であると結論できる。 ただし,表面電位の二次元マップを得る事,さらにその時間的変化を記録してゆくことは,本研究のようなほとんど手動の計測では不可能であり, コンピュータを援用する必要がある。また,充放電サイクルが高速な場合にはストロボ SEM の手法も取り入れる必要があるだろう。 この手法で得られる表面電位分布のデータと電子線ホログラフィで得られる内部電位分布のデータを詳細に比較することで,表面電位と内部電位の 対応関係が明らかになってゆくことを期待したい。 ![]() 関連論文・発表(下線は発表者)
開発課題名「Li+二次電池ミクロ界面のイオン拡散時間応答の可視化技術の開発」(2012.10 - 2014.3) |
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